認知症と運動と刺激

認知症の予防や改善には、適度な運動がいいと言われています。
他には、皮膚・筋肉・関節を刺激することもいいとされています。
例えば、歩いたり、鍼灸やマッサージを日常に取り入れることで、認知症の予防が期待できます。

❶「認知症は、認知機能が加齢とともに徐々に低下して生じます。
認知症ではないものの、年齢相応より認知機能が低下した状態をMCIと呼びます。MCIは認知症になりやすい反面、症状が軽度であれば、31〜44%の人が正常の状態に回復します。そのため、物忘れが気になりだしたら、「早め」の取り組みが重要となります。」

❷高齢者では、「寝たきりになると認知症になりやすい」といいます。
その逆に、「よく歩くと認知症になりにくい」ことが最近の研究によってわかってきました。
たとえば、70~80歳の女性の認知機能テストの成績と日頃の運動習慣の関係を調べた研究によると、日頃よく歩く人はテストの成績が良く、少なくとも1週間に90分(1日あたりにすると15分程度)歩く人は、週に40分未満の人より認知機能が良いことがわかっています。」

「脳が正しくはたらくためには、絶えず十分な血液が流れている必要があります。脳の働きを担う神経細胞は、血流不足にとても弱く、再生能力もありません。
高齢者やアルツハイマー型認知症患者では、大脳皮質や海馬(記憶などの高次機能を司る部位)で脳血流の低下がみられます。
この大脳皮質や海馬には、大脳の奥から伸びてきてアセチルコリンという化学物質を放出する神経(アセチルコリン神経)が来ています。」

「歩くという運動ができない場合でも、皮膚や筋、関節に刺激をあたえることで、同様の効果が得られることがわかりました。」

「アルツハイマー型認知症の人では、アセチルコリンを作る神経細胞が少なくなっています。
そのため、抗認知症薬の多くは、わずかに残ったアセチルコリンの分解を防いで、アセチルコリンを増やす働きをしています。
しかし、年相応の物忘れがある程度では、この神経がまだたくさん残っていますので、身体への刺激によってアセチルコリンを増やすことが可能となります。
つまり歩いたり皮膚を刺激したりすることで、抗認知症薬と同じ効果が期待できます。
アセチルコリンを作る神経が病気で少なくなる前なら、薬に頼らず無理のない日常的な身体への刺激で、認知症を予防できる可能性があります。」

❸「2001年に海外で行われた研究を一例に挙げると、認知症を発症していない高齢者4,615人を5年間追跡調査した結果、「運動量の多いグループ(歩行より強度の高い運動を週3回以上行った)」は「運動量の少ないグループ(歩行以下の運動を週3回以下の頻度でしか行っていない)」より、軽度認知障がいやアルツハイマー型認知症、その他全ての認知症の発症リスクが明らかに低かったそうです。
つまり、運動などで活発に動いている高齢者のほうが、運動不足の高齢者よりも認知症になりにくいといえるでしょう。
では、なぜ運動が脳の認知機能に良い影響を与えるのでしょうか?
それは、運動をすると、脳の神経を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質が海馬(記憶を司る部分)で多く分泌され、海馬の機能維持や肥大に効果をもたらすからだと考えられています。
体を動かすと、脳から出た指令を神経が介して筋肉が動き、同時に筋肉から出た信号が脳に伝わって脳を活性化する―つまり脳と筋肉は、相互に刺激し合う重要な関係性なのです。
また、脳が正しく働くためには、絶えず十分な血液が流れている必要があります。高齢者やアルツハイマー型認知症患者の脳では、海馬などで脳血流の低下が見られており、この血流を改善するためにも、運動をして体を動かすことが効果的だと考えられています。」

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