「キャッチ・アンド・キル」と「シー・セッド」

今年読んだ本のうちの二冊です。
どちらも、ハリウッドの映画プロデューサーであるハーベイ・ワインスタインの起こした性加害事件を取材した記者によるものです。(注 読んだのが数ヶ月前で、手元にないまま書いています。大まかな内容は合っていると思いますが、間違いがあったらすみません。)

有名女優、若手女優、裏方の女性スタッフなど、多くの被害者がいる。
30年以上、誰もが同じような手口で被害に遭っていた。
泣き寝入りさせられた人、拒否して仕事を干された人、業界追放された人、それをみて口を噤む人。
これらの前にも記事にしようとした記者がいたようですが、脅迫・恐喝・妨害などで黙らせてきました。
イスラエルの民間調査会社まで出てきます。
NBCなどのテレビ局、映画界も、ワインスタインを守るように動いていましたし、テレビ局の内部でも出演者の性犯罪を隠していたことが発覚します。
ワインスタインは民主党の熱心な支持者で、ヒラリーとは友人として有名でした。
女性の権利を守る活動に参加しながら、自分の権力が及ぶところでは真逆のことをしていました。
一度は警察が動いた事件が、いきなり捜査打ち切りになったこともありました。
証拠があるのに、揉み消したことで、その証拠を巡るやり取りも出てきます。

最初に記事を出したニューヨークタイムズの2人の記者の「シー・セッド」
こちらは映画にもなり、実際に実名で声を上げたアシュレイ・ジャッドが本人役としてカメオ出演しています。
映画はほんの一部を切り取った構成なので、原作を読むとより理解できる描写があるかと思います。
邦題のサブタイトルが、その名を暴けなんですが、私は反対の意味で使われてるような気が…
どっちかというと、自分の実名を名乗りあげて告発する恐怖とか勇気とか、そういうことを超えてのShe saidなんじゃないかと。
次に紹介する記者とほぼ同時にワインスタインを追っていた二組故に、スクープ合戦のようでいつつ、互いに補完するような関係にも見えました。
後塵を拝したけれど、入念な取材内容で読み応えのあるローナン・ファローの「キャッチ・アンド・キル」
筆者のローナン・ファローは、ウッディ・アレンとミア・ファローの息子で、ウッディアレンの性加害について傍観してきた過去があり、この件を執筆中も自問します。
タイトルのキャッチ・アンド・キルとは、スキャンダルなどが表沙汰になる前に捉えて揉み消すことだそう。
お金と引き換えに秘密保持契約を結ぶことで、口封じをすれば、被害者は話せなくなる。
こうして、加害者の罪は表沙汰にはならず、被害者は増え続けることに。
権力者に甘い周囲の人々を見て、被害者は絶望して病んでしまうこともあります。

子供の頃から映画好きなので、ワインスタインが立ち上げた会社ミラマックスやワインスタインカンパニーの作る映画は観ていました。
ただスキャンダルには興味もないので、その悪評については知りませんでした。
ハリウッドでは公然の秘密だったようで、アカデミー賞のスピーチでも揶揄されていたそうです。
昔から気になっていた女優さんも、注目されていたはずなのに結局あまり演技の仕事しなかったなぁ〜私生活を優先しているのかな…と思っていたら、ワインスタインを拒否して干された1人でした。
その方は20代で注目されて、今は50代なので、俳優として若い頃にいい作品に出る機会を奪われたんだな…と思うとやるせないです。
その女優はこれらの本には出てきません。
あるスピーチで告白したのですが、この取材をしていた頃は警戒していたのかもしれません。
記者に話しても、それがワインスタインのスパイで、情報が筒抜けになり、脅されるという人もいるので、慎重になってもおかしくはないのです。
脅迫・恐喝など他人に危害を加えることを辞さない相手が、直接怒鳴り込んでくるというのは恐怖ですしね。
ワインスタインって誰にでも怒鳴り散らかす人だったみたいです。
その後、逮捕起訴され、昨年と今年で禁固刑がNY23年とLA16年になりました。
現在71歳なので、収監されたまま一生を終えるのでしょう。

そんなことと、世界中のカトリック教会の司祭による数十年にわたる児童への性的虐待の隠蔽事件を、ジャニーズ事務所のニュースを見ながら思い出していました。
ジャニー氏は亡くなりましたが、この話まだ終わらないような気がします。
長年沈黙を続けたマスコミについても言及されるべきですが、どうも自浄作用はなさそうなので、海外メディアの追求次第のようになっています(それもどうなのよと思いますが)
私はジャニーズのファンではないのですが、ファンの方の心中お察しします。
何とか落とし所を見つけられるといいですね。
社名を変えないということも、株主が前社長のままというのも、悪手としかうつりませんから。